金 南昔 x 何 佳

トータルエンジニアリングとしての建築 2

金助教によるショートレクチャーより:屋根の重さに関する図


トータルエンジニアリングで伝えたかったこと 岩澤浩一

2020年以降の地球温暖化対策「パリ協定」が2016年11月4日に発効され既に1年以上が過ぎた。アメリカ政府としては「パリ協定」を離脱したものの投資家たちは、再生可能エネルギーへの投資に完全にシフトしている。化石燃料の価値は下がりエネルギー革命が起こる。産油国のサウジアラビアも大国中国もメガソーラーの建設を急いでいる。一方で日本政府は火力発電の技術輸出を今でも推進し国際的な非難を浴びている。2017年12月17日放送のNHKスペシャル「脱炭素革命の衝撃」 (youtubeで配信中http://www.youtube.com/watch?v=fDP4jvma6Pk) ではそういった世界の情勢と日本のエンジニアリングが立たされている実情が切実に描かれている。学生の皆さんにも是非見て頂きたい。
また、再生可能エネルギーがどのように使われているかという実情も興味深い。仮想通貨が話題に上がる今日この頃。投資の取引をはじめ、コンピューターネットワークでの大量の電力消費。私たちの目に見えない仮想空間で膨大なエネルギーが消費されている。世界の経済は大きな変換点をむかえている。当然、建築も変わる必要がある。従来の枠組み、大学での研究領域の住み分けという垣根を越えてこれからの建築を分野横断的に切り開いていく必要がある。AFTER HOURSでは2016年、2017年と「トータルエンジニアリングとしての建築」と題して6名の理科大専任の助教を招いて環境系、構造系、生産系のレクチャーを展開してきた。実務の世界ではトータルデザインとしてエンジニアリングの理解は必須で、そのことを除いて建築は成立しえないと言っていい。研究・教育についても、専門領域の垣根を越えてより多く対話すべきだと切に思う。その小さな試みとしてこの会を位置付けたい。
本年は、構造を専門とする金助教と環境を専門とする何助教にお話いただいた。概要については元理科大教員であり、現東京大学腰原研究室助教の松本氏のコメントをご参照頂きたい。

「トータルエンジニアリングとしての建築2」を聞いて 松本直之

金さんからは、軸力系構造形式のご紹介から、大空間構造の解析・施工の取り組みをつなげてお話しいただきました。また、何さんからは、熱環境から見たガラス建築の設計というテーマで、ブラインド内蔵ガラスシステムを中心にお話しいただきました。議論の中では、岩澤さんから、設計実務におけるガラスの使い方を通じて、量産されたものとオーダーメイドを比較して技術を開発・適用する難しさについても話が展開され、研究と実務の現場が交錯する大変刺激的な回でした。
私自身は、おもに現状をより精緻に評価するための研究に取り組んできたのですが、で評価した建物にどのような技術を適用すればよいのか。エンジニアリングの研究は、えてして全体性のない要素技術の開発との誹りを受けがちですが、出来上がる建築の全体性とどのように関連しうるか、古典的ですが変わらぬ課題だと改めて感じています。ある意味でそれを繋ごうとしてきたのが構法(つくり方)の役割だったわけで、今後何ができるのか、試行錯誤していきたいと思います。

金 南昔 Namseok KIM
東京理科大学工学部建築学科助教 栗田研究室

1981 韓国生まれ
2007 世明大学建築工学科卒業
2015 東北大学大学院工学研究科博士後期課程修了/博士(工学)

何 佳 Ka KA
東京理科大学工学部建築学科助教 長井研究室

1981 中国生まれ
2002 湖南大学工学部卒業
2013 東京大学大学院博士後期課程修了 / 博士(工学)