神戸 渡

LVLを用いた最近の建物と最近の課題

材木 画像提供: キーテック(株)


平成22年10月に施行された「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(通称、木材利用促進法)は、様々な分野への貢献を意識したものです。地球環境問題の一つである温暖化防止、林業経営を活性化することによる地域経済の健全化などが主な目的でと言われています。簡単に言うと、木材を利用する場を増やそうという法律となります。それらに貢献するため、建築分野では大型の建物を建築する場合、その構造体や内外装に木材を多く使用することを考えています。大型の木造建物を作る場合には、耐力の観点からCLT・集成材・LVL・合板などの強度が安定している材料(通称、エンジニアードウッド)を用いる必要があります。そのため、それらの材料の強度や接合部の耐力に関する研究が必要となります。また大型の建築物の場合、不特定多数の人が利用するため、火災などのときに避難ができるようにするための耐火性能が求められます。よって、これらの研究が積極的に進められています。大型の木造に注目されていますが、建築する立場にも解決すべき問題があります。大型の建築物の建設を得意とするゼネコン等の総合建設業の方々は、木材を主として用いる建物の建築経験が少なく、木造建築物の建設を得意とする工務店等は、大型のも建物の建築経験が少ないという問題であります。
以上のように、地球規模で大きな問題の解決に取り組もうという意識は高まっているが、そのために解決すべき課題が多くあります。そこで私の研究室では、単に学問を学ぶだけでなく、色々な経験を通して、その学問が社会問題とどのように結びついているのかの理解を深めることを意識しています。
まず林業に関して、実際の山に入り、間伐体験をすることを学生に勧めています。ここでは横浜市水道局が企画している間伐体験ツアーへの参加を紹介しています。山梨県道志村は横浜市の水源林であるが、その山林の間伐作業は必ずしも十分とは言えません。現在はボランティアの方が山に入り間伐を進めているが、それを横浜市内の大学生に体験してもらうことで、横浜市水道局が活動や、水源林の重要性を知ってもらおうという活動をしています。そのような活動に参加することで、建築と間伐との繋がりを体感してもらいたいと考えています。
エンジニアードの名称などは授業では習うが実際のものを触ったことがある学生は少ないように感じます。私の研究室ではエンジニアードウッドの一つであるLVLの製造工場に見学に赴き、実際の製作現場を見て、その材料に触ってみることを奨めています。その工場では丸太の状態、製造ラインなどを見学します。更に実際のLVLが実際に使われている建物を見学に行ったり、それらを使った構造物を実際に建築し、それを使った実験したりします。そういった経験から、材料と建築の繋がりを理解してもらいたいと考えています。
また、その建物の1つは、私がこれまで研究室の活動で行ってきた研究成果が活かされています。学生が卒業論文で扱ったテーマを発展させたものが実際の建物の開発に活きることもあるということを学生たちに伝えたいと思っています。大学の勉強というものは単なる学問ではなく、社会に役立つものでなければならないと思っています。もちろん、全ての学生の成果が社会に直ぐに役立つものになるというわけではありません。しかし、社会問題を意識して研究に取り組むか否かで、成果の進み具合や、学生自身の人としての成長には大きな差があると思います。そのように、研究活動と社会活動の繋がりを意識したいと日頃から考えています。
木造の建築物の最も基本的なものは住宅です。大規模な建築物を建築する場合であっても、その基本的な考え方がベースになることが多いと言われています。そこで、模型を使った簡易的な実験を行うことで、木造建築ではどういったことに注意をする必要があるのかを学んでもらいます。これらの模型の製作は卒業論文の課題にもなります。これらの模型は、高校生や一般の方への公開講座でも使われており、研究成果が一般の方に伝わる瞬間であり、そのような成果にもつながるということを学生たちには意識してほしいと考えています。
私の研究室は、構造系であり、木質材料を研究の軸にしています。しかしながら、木質構造のことだけに興味を持てば良いというのではないと思っています。それらの成果や取り組みが、どのような位置づけで社会に対して貢献できるかを意識できるかということが最も重要であると考えています。そのための研究活動を多く行っていきたいと思いますし、それらの経験の中では、他の大学や社会の方と直接繋がりをもち、それらの繋がりがかかわる方全員の今後の人生をよりよくするものになってくれればと思っています。
(神戸)

木からLVLに至るまでの工程
上から3枚目画像提供: キーテック(株)

耐震性実験モックアップ/右下:圧縮試験の方法と曲げ変形の様子

「LVLを用いた最近の建物と最近の課題」を聞いて 高佳音

木という材料のスケール感に慣れ親しんで暮らしてきたせいもあるのだろうが、木造建築と挑戦的なアプローチというのは、一般的に結びつきにくいかも知れない。だが、いま木材業界は人手不足や流通・環境問題、制度や需要の変化といった問題を抱えつつも、Timberize等の活動からも見られるように、新しい工法や材料への取り組みに意欲的だ。木を切り出して火をおこし、道具をつくり、建材として使うことから、更にはその木材を薄くベニヤへと加工し接着するという手法が編み出された。最初の合板と呼べるものはエジプトの紀元前2500年まで遡り、手作業でベニヤへと切り出していたため高度な技術が必要とされていた。それが工業化を経て家具、茶箱、ピアノ、電車、そして建材へとさまざまな用途へ応用されるに至った。そして合板から始まった、木材からエンジニアード・ウッド(加工された木材と接着剤からなる複合材料)への転換とその種類・活用方法が増えるにつれ(LVLもその代表例)、新たな提案も大型の建築、層など材料特有の表現、コンピューター制御による加工機の発展、といった様々な変化を見せている。余談ではあるが、接着剤がまだ十分に防水性を確保できていなかった戦後、粗悪な合板が出回ったことから子供たちの間で「ベニヤ板」というのは役立たずと同義の悪口だったらしい。
家具の世界では、手のかかる半手工芸的な成型合板のテクニックが日本において独自の発展を遂げた。そのように材料の使い方、見せ方にはまだまだ余地がありそうだ。最後に、結局は材料がどう優れているかをいくら力説するより、デザインする側の人間が使いたいと思うことが大事だという神戸さんの言葉が特に印象に残った。

神戸 渡 Wataru KAMBE
関東学院大学 建築・環境学部 専任講師

1977 新潟県生まれ
2007 秋田県立大学木材高度加工研究所
2009 東京理科大学工学部助教
2013-  現職

受賞: 2016年度日本建築学会奨励賞
著書: ティンバーメカニクス 木材の力学理論と応用,海青社, 2015(共著)
木質構造基礎理論, 丸善, 2010(共著)