高木 秀太

「仕組み」を設計する

ドッグラン柵プログラムのスタディモデル出力データ


今回のレクチャータイトルは大変悩みました。タイトル『「仕組み」を設計する』は私の師である松川昌平氏(000studio主宰/慶應義塾大学SFC准教授)からその門下生に脈々と課されている、いわば統一テーマであり、私のオリジナルというわけでは無いからです。しかし、レクチャー開催の半年前に師のもとを飛び出し独立した私に、その他のストックがあるわけもなく、私なりの建築設計、そして、建築教育における「仕組み」の捉え方をお伝え出来ればと思い、このテーマで登壇しました。
世界中にある「仕組み」に心を奪われます。優れた「仕組み」には多様性と永続性が見えるからです。私はそこに美しさを感じずにはいられないのです。そして、それらを実現するためのキーワードは「部分と全体」、「冗長性」であると私は捉えます。レクチャー当日、サッカーとAKB48の例え話で盛り上がり、それが「一番わかりやすかった」、という感想を頂いたのでここでも同様にレビューしようと思います。

部分と全体 - サッカーの「仕組み」
サッカーは競技人口が世界一であるという統計があります。数あるスポーツの中で最も秀でた「仕組み」の一つです。サッカーのルールは決して複雑なものではありません。そして、一人一人の選手が行っている動作は至ってシンプルです(ボールを蹴る、ボールを受ける、走る)。しかし、11人のプレーヤーのうちのたった1人の交代が、あるいは、同じメンバーでもフォーメーションの変更が、戦局に大きな変化を生じさせます。もっとささやかなところだと、一つのドリブルが、シュートが、後々の展開に大きく影響することも有り得るでしょう。そして、それらの判断・動作の積み重ねが誰も予測できない結末へと向かっていきます。部分のささやかな変化が全体の大きな変化に影響する、(このような状態を流行りの言葉で「複雑系」と呼んだりしますが、)まるでコンピューターシミュレーションのような「仕組み」が、フィールド上で刻々と展開されているように私は捉えるのです。単純な部分が織りなす複雑な全体は、決して飽きられることのない多様性と永続性を獲得している、と言えます。

ビデオゲーム「Football Manager」パスルートの可視化(https://footballmanagerveteran.wordpress.com/2013/12/14/fm14-club-and-country-wunderteam-reborn/)

AKB48メンバー写真 (http://www.akb48.co.jp/about/members/)
下:AKB48総選挙得票統計データ 高木作成

冗長性 - AKB48の「仕組み」
AKB48はそのグループとしての冗長性に支えられた「仕組み」です。個(メンバー)の不出来、トラブルや失敗は切り捨て、群(グループ)としては変わらないクオリティで生き残る。この生存戦略の「仕組み」は、おびただしい数のアイドルを所有している冗長性があればこそ獲得できたものです。この冗長性は多様化したアイドル需要に対する、とてつもなく大きな受け皿にもなっています。また、メンバーの新陳代謝を常時行っている点も同じく生物学的な「仕組み」を習っているように思えます。ファンにとって、「総選挙」は最もエキサイトする瞬間でしょう。「仕組み」の中の人気という個のパラメーターが全て数値として外部化、共有される瞬間だからです。AKB48は未だ、永続性を獲得しているとは言い難いですが、すでに10年間近くもの間、驚異的な人気・セールスを保ち続けています。これは日本のアイドル史上、恐らくこのグループが初めてです。
サッカーやAKB48の「仕組み」は一体誰が設計したのでしょう。わかりません。でも、誰か(あるいは、誰かたち)が設計しているはずです。そして、私の専門である建築設計、建築教育の分野において、この「仕組み」をどのように組み込むべきなのか。これが私のテーマです。

私が取り組んできた「仕組み」
設計の分野での「仕組み」つくりは未だ見果てぬ夢です。なにが有効で、なにが新しいか、私にも実はよく分かっていません。サッカーやAKB48まで優れたものとは言えませんが、私がいままで取り組んできた『「仕組み」の設計』を、当日レクチャーしたものの中から分かりやすいもののみをピックアップし、紹介します。

ケース1 ドッグラン柵設計パラメトリックモデラー(部分と全体の設計)
(c) 4FA + 合同会社高木秀太事務所
熱海に設計されたドッグランの柵のデジタル3DモデルをパラメトリックにスタディするためのCADプログラムです。柵を構成する板材のサイズや、杭のサイズ・スパン(=部分)を入力することによって、更新される柵の形状やコスト(=全体)を算出するとてもシンプルな「仕組み」です。部分の変更が全体に影響を及ぼす一連の流れにおいて、手作業で行っていたルーチンをコンピュータープログラムにアウトプットすることによって計算を高速化しています。

ドッグラン柵建設途中の写真

ドッグラン柵プログラムの入力データ

ドッグラン柵プログラムの出力データ

ケース2 Rhinocerous、Grasshopper 
独学サイト「Rhino-GH.com」(冗長性の設計)
(c)株式会社日建設計+合同会社高木秀太事務所
Robert McNeel & Associates社の3DモデラーRhinoceros®、ビジュアルアルゴリズムエディタGrasshopper®の独学webサイトです。それぞれのツールの教材を1枚1枚のカードに見立てて細分化してデータ化しており、さらにそれぞれに音声つきの動画を用意しています(総ムービー数約300本)(=冗長性)。細分化されたデータは「とある建築をモデリングする」というような一連のエクササイズでリファレンスとしてテキストが引用できるようになっており、新規のエクササイズテキストを労少なくしてコラージュのように新規構築出来るよう、工夫されています。(高木)
※2016年12月1日現在、Rhino-GH.comは非公開のサービスになっていますが、今後、公開していく予定があります。

Rhino-GH.comコンセプトダイアグラム

Rhino-GH.com カードに細分化されたツール

Rhino-GH.com 講義ビデオ

「『仕組み』を設計する」を聞いて 高佳音

本来ならここで建築設計プロセスとしての仕組みについて言及すべきであろうが、代わりに高木秀太氏本人について述べてみたい。詳細は省くが、食べ物・洋服・ヘアスタイルに関してとてもストイックである。それは自分の体を用い、様々な「無駄な」パラメーターを排除することで、高木的仕組みというものを世間に向けてより明確、より純粋に定義しようとしているからなのだろうか。
高木氏は「建築家」ではなく、「便利屋」になりたいのだと言う。所謂デザイン好き、料理好き、持ちものにこだわる等といった典型的な建築家像に真っ向から対抗するような姿勢である。それは高木氏の野望が、システムの構築や膨大なデータをどう調理し、どう数値化するかに完全に向けられているからだろうか。でも煩悩の余地もあるに違いない。結局、設計における仕組みよりもそちらの方が気になってしまった。

高木 秀太 Shuta TAKAGI
合同会社高木秀太事務所 代表/東京理科大学非常勤講師

2011 東京理科大学大学院 工学研究科 建築学専攻 修了
2011 株式会社エーシーエ設計 設計部 勤務
2012 000studio/ゼロ スタジオ(主宰:松川昌平) 勤務
2013 慶応義塾大学SFC 臨時職員
2014 東京理科大学 工学部 第一部 建築学科 非常勤講師   (設計基礎2、建築都市設計)
2015 慶応義塾大学SFC 非常勤講師 (デジタルデザイン基礎)
2016-  現職