濱 定史

小屋のつくり方

板倉の長屋


私は民家などの伝統的な木造構法の地域性について研究を行っており、特に板倉などの小さな小屋について注目しています。研究の分野は主屋の研究が中心で、小屋は“付属”小屋と呼ばれていますので、注目されてこなかった部分ですが、こういった小さな小屋の中に、他では失われてしまった伝統的な構法や生活がみてとれるのではないかと考えています。ここでは各地域の様々な作業小屋や板倉を紹介しました。例えば秋田県仙北地域の水板倉は、防犯・防鼠・調温のために、水上に倉庫を建てるという特殊な小屋です。上部の倉庫では米を収納して、下の池では鯉を放つ。土台についた苔を食べて育ち、冬になるとその鯉を食べるという、建築が生活と密接に関わるような事例を紹介しました。
このような小屋は、日本だけの特殊なものではなく、例えばスペインのオレオというトウモロコシ乾燥小屋では材料や装飾など細部は異なるのですが、高床・通風を考えた壁面など大きく見ると同じく内部を乾燥させるつくりかたになっています。これは技術が伝搬したのではなく、農業生産を行う民族の共通文化と考えています。

水板倉アイソメ図

岐阜県飛騨市種蔵集落の板倉

大分県津久見市のみかん倉

板倉の長屋

後半では、これまで行なった設計の中で小屋のような小さな建築を紹介しました。まずは、伝統的な構法の収納兼作業小屋「板倉の長屋」を紹介しました。柱に溝を掘って、厚板を柱間に落としこむ板倉構法で壁をつくり、屋根は厚板を重ねた大和葺きとして、6坪の土間の室内と2坪の土庇をもつ小さな小屋です。このプロジェクトは、新しい住まい方を提案する住宅博覧会のパビリオンでしたので、園芸や工作、絵画や陶芸など趣味を行うことのできる小屋を提案しました。物が増えて物置が必要になった時に、周辺の農家集落では先ほど紹介したような収納兼作業場の小屋をすでにたくさん持っていますが、新興住宅街ではプレハブの物置を設置しています。プレハブの倉庫を建てるのはなく、木造の小屋を建てると風景も変わるのではないかと思い、プレハブの小屋と同等の価格になるように設計しています。

Re-Fort Project(photo:下道 基行)

最後に「Re-Fort Project」というプロジェクトについて紹介しました。放置されている戦争遺構と対峙するプロジェクトで、下道基行(美術家)が中心となり、中崎透(美術家)、一ノ瀬彩(建築家)と私の4人で行ったものです。千葉の富津岬に、爆弾の性能をみる試験場があり、これをスクウォットしながらみんなでデッキをつくって最後にイベントを行うというものでした。このような遺構の多くは過去に国が造ったもので、現在では建物・土地の所有が曖昧という問題があります。この問題を浮き彫りにするというプロジェクトですが、ちょっとしたデッキを作るという行為を通じて、関わった方々が期せずしてその問題と関わる事ができたと考えています。小屋の研究についても、Re-Fort Projectも、学生の頃に考えて実行したものです。もちろん今考えると失敗や稚拙な部分は多いのですが、現在考えている事と本質はあまり変わっていない(成長していないのかもしれません)と考えています。学生の皆さんには、現在考えていることに自信を持ってチャレンジしてもらいたいと考えています。(濱)

Re-Fort Project(photo:下道 基行)

「小屋のつくり方」を聞いて 佐河雄介

小屋たちのもつ物静かな雰囲気とその裏側に垣間見える生活への愛と知恵。時を経て、私達が当時の人々の生活や考え方に思いを馳せるとき、その小屋の魅力があふれ出てくるのだと今回のレクチャーを聞いて思いました。そういう意味で仮設のトーチカプロジェクトはとても興味深かったと思います。その理由はあのプロジェクトには今を生きる私たちにとっての生のトーチカの位置付けがあり、そこに住むという行為には私たちの生きる喜びのようなものが込められていたと思うからです。だから、例えばあのプロジェクトが仮設ではなく恒常的なプロジェクトとして100年後も存在していたとしたら、私たちが今、小屋に対して思いを馳せるのと同じように未来の人々の想像力をかきたてていたはずです。歴史を学び、今を捉え、そして何より濱先生自身がとても楽しそうに小屋の研究をしている姿は大変刺激的でした。

濱 定史 Sadashi HAMA
伊藤裕久研助教

1978 茨城県石岡市生まれ
2002 武蔵野美術大学造形学部卒業
2005 筑波大学大学院芸術研究科修士課程修了
2009 筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程修了
2009 筑波大学大学院人間総合科学研究科研究員
2010 東京理科大学工学部第一部建築学科補手
2012 東京理科大学工学部第一部建築学科 伊藤裕久研究室助教

(写真左から2番目)