岩澤 浩一

公共建築とまち

福生市庁舎

写真提供:山本理顕設計工場


始めに2つのキーワードを上げた。
コンセプト(concept)と実現(materialize)。
コンセプト(concept):抽象・普遍化してとらえた意味内容で、思考活動の基盤となる頭の中でとらえたもの。イメージなど。
実現(materialize):○○を有形化[具体化、具現]する、○○に形を与える、○○を実現する、○○を物質的にする。

建築の実現においては、この対照的な思考(抽象/具体)の相互横断によってつくりあげられていくと考えられる。建築は実現すると非常に物質的、具体的な存在として長きに渡って「まち」(そこに生活する人々、街並)にメッセージを投げかけることになる。コンセプトを越えて物として公共性を持つとも言えるかもしれない。これは公共建築に限った事ではなく、個人住宅でもストリートファニチャーでも同様に物として存在した時点である種の公共性を帯びると考えられる。これまで携わった3つの建築とまちの関係を手がかりに建築が持つ公共性について考えてみようと思った。

福生市庁舎(山本理顕設計工場で担当)
当時第一庁舎から第四庁舎まで増築を繰り返して利便性が低下した市庁舎の建替えのプロジェクトである。
24ヶ月で新庁舎の建設、旧庁舎の解体、引っ越しというプロセスを庁舎を稼働させながら解決することが要件であった。機能・効率を重視すると現況駐車場となっている敷地南側に10〜12層の高層タワー、北側に日影の広場という構成になる。どうしたらよいか。敷地のポテンシャルを最大に活かす配置・ボリュームは何か徹底的に検討した。第四庁舎の引っ越しを1年遅らせることが出来れば敷地いっぱいに市民のフォーラム、丘の広場、5層のツインタワーで解決できる、プロポーザルで提案した。庁舎は、50年100年存在し続ける存在、引っ越しを一部遅らせることは、1年間の利便性を下げる側面はあるものの、市民に開かれた空間が評価され設計者に選定された。

工期短縮のため、タワー棟ではプレキャストコンクリートによる格子壁チューブ構造を採用。上層に行く程、負担荷重が減るため柱梁を細くしファサードの変化と構造的合理性を両立させようとした。

丘の広場およびフォーラムの屋根を構成する3次元スラブには、球体ボイドスラブ、ポストテンション、キャピタル付き補助鉄骨柱を併用し、軽量でロングスパン且つ緩やかなアーチ構造を実現した。地震力は南北の接地部分で基礎へと伝達する。

ツインタワーは手前が議会棟、奥が行政棟。丘の広場の下に窓口業務を集中配置したフォーラムがある。(photo: Sergio Pirrone)

敷地いっぱいに広がるフォーラムの内観。
市民が受ける行政サービスのほとんどはフォーラム内で完結するよう各部署を配置してある。(写真提供:山本理顕設計工場)

竣工後5年経た七夕の日、庁舎を訪れた。このまちの一大イベントの七夕祭りを見るためだ。丘の広場にはステージが置かれ、丘の傾斜に多くの市民が腰を掛け演目の開始を待っている。ツインタワーには大きな横断幕、フォーラムにはゴーヤカーテンも出来ていた市民の方の手によるものだろう。平常時は、朝夕の散歩コースになっているそうだ。市庁舎という機能を越えて市民の日常・非日常の舞台として時を重ねることを願いたい。

丘の広場は、福生市の一大イベント「七夕まつり」のメイン会場として利用されている。

タワー棟は、フレキシブルにレイアウト変更できるよう
プレキャストコンクリートによるプレテンション-シングルTスラブを採用。21.5mの無柱空間としている。(photo: Sergio Pirrone)

JR船橋駅北口EVデザイン企画・実施設計(id一級建築士事務所)
理科大工学部2年前期の設計課題に「Micro Architecture」という10㎡以下の小さな空間を神楽坂のまちに提案する課題がある。JR船橋駅北口EVは、私にとっての「Micro Architecture」とも言えるプロジェクトである。バリアフリーという言葉が広く知られるようになって久しいが、意外な程、地上へのエレベーターが設置されてない駅の事例が全国各地に数多くある。
JR船橋駅北口EVの要件は3点。ペデストリアンデッキと地上をEVで結ぶこと。道路の変更を最小限にするコンパクトな設計。ガラスは用いないこと。
この場所に必要なものは何か、次の3点を加えてデザインした。「駅や周辺からの視認性を高めること」「入口前で傘をたためるよう庇を設けること」「EV自体が照明器具のように美しいこと」。完成は未だ先だが、多くの人が利用する事になるだろう。公共性は建築の大小ではなく、物として存在するものに帯びる。

昼景

夜には駅前の灯籠になる

三郷市立ピアラシティ交流センター
(西倉建築事務所+昭和株式会社+id一級建築士事務所)
区画整理によってできた新しいまち。三郷インターA地区、ここは且つて田んぼだった。
「新しいまちの中心に公園そして建築を」。土地区画整理組合がつくり、三郷市に移管する、この地区の記念碑的事業設計プロポーザルであった。
既存の公共地区センターのリサーチから始めた。いくつかの事例から地域のサークル団体の予約が数ヶ月先迄埋まっていて、ふっとした時に実は使えないという公共地区センターの現状がわかった。

三郷市立ピアラシティ交流センター:1階には、ロビー・市民ギャラリー・コミュニティダイニング・体験学習室等を配置。
2階には、フリースペースと貸し室機・地域活動室を配置。(photo:大野 繁)

いつでもアクセス可能で自由な場所でこそ公共性が高いと言える。貸し室機能とは別に予約無しで使えるフリースペースという空間を提案した。また、市民の活動が周辺から感じられ気軽に入れることも重要と考え透明性の高いファサードの設計をした。そして公園と建築が相互に高め合うようなランドスケープとなるよう設計チームで意思統一を図った。オープニングではコンサートも開かれた。公園内にあるコミュニティガーデンという畑から取れた野菜を食べられるカフェがある。料理教室も開ける。夏にはじゃぶじゃぶ池に子供たちが集う。

時を経て日常・非日常の記憶になる建築、小さな物が持つ公共性、いつでもアクセスできる建築、人々の活動を表出する建築。そんなことを考え話した「公共建築とまち」2015年9月18日のAfter Hours。(岩澤)

フリースペースの家具は、テーブルでありベンチでもあり、掲示板でもある。

周囲の住宅街から巨大に見えないようボリュームを分節。(photo:大野 繁)

三郷市立ピアラシティ交流センターを中心に宅地化が進んでいる。(写真提供:西倉建築事務所)

「公共建築とまち」を聞いて 藤井健史

建築という企てはとても遅く、重く、固い。対照的なのは例えば写真で、スピーディーで軽やかだ。時々写真がうらやましくなることもあるが、短所は長所。岩澤さんのお話は、長い時間軸をターゲットにして、どうしようもなく物理的に強固に存在し続けるしかないということが建築のオリジナルな魅力でもあり、建築が公共性を帯びることの源泉であるという指摘だった。逆に、そこの認識が甘いと、たとえ公共的な事業であったとしても、その企てが本当の意味での「公共性」を獲得することはない。モノの大小に関わらず、そういった建築の宿命的な性質を請け負った上で、そのプロジェクトが誰のためか、何のためか、何ができるのか、ということについて具体的な想いを馳せ続けることがやはり重要だ。スライドの中で紹介されていた意匠や工法、あるいは企画に関する試みには、そこに込められた想いと挑戦を見て取ることができた。

こういった話は、多くの学生の皆さんにとっては、まだ実感の持てない話かもしれない。しかし、そう遠くない未来、岩澤さんの話を実感として理解する日が必ず来る。だから、今のうちから建築がそういう性質と影響力の大きさを持って、社会や人々との関係を取り結んでいるというイメージを頭の片隅に置いておいて欲しい。そうすれば、設計製図の課題でも、もっと掘り下げたビジョンを持てるきっかけになるはずだ。

岩澤 浩一 Koichi IWASAWA
設計助教

1978 北海道生まれ
2003 北海道工業大学大学院建築工学専攻修士課程修了
2003 株式会社 山本理顕設計工場入社
設計・監理担当: 公立はこだて未来大学研究棟 福生市庁舎 ドラゴンリリーさんの家
2009 id一級建築士事務所設立
2015 東京理科大学工学部第一部建築学科 設計助教  iwasawa designに改組

(写真一番左)